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プレゼント

 彼女は薄くて柔らかいものが好きだ。鳥の羽、摘みたての若い葉っぱ、ガーゼのブランケット。彼女は時折そういったものに顔をうずめたり、頬ずりしたりする。僕はそんな彼女の姿が可愛く思えて、誕生日に絹のハンカチをプレゼントした。予想通り、彼女が嬉しそうに頬ずりしているのを、僕は暫く見つめたものだ。それから僕は、彼女に毎年薄くて柔らかいものを誕生日にあげている。僕と彼女が一緒に暮らし始めて数年経つが、僕が送ったプレゼントに顔を埋めている彼女の姿には飽きが来ない。梅雨が明ければ今年も彼女の誕生日がやってくる。今年はどんなものをあげようか。

 

「やっぱりさ、綺麗な色よりも落ち着いた色の方が、見ていてリラックスできると思うんだよね」

 

「緑とか、茶色とか?」

 

「そうそう」

 

 仕事が終わった後、それとなく同僚にプレゼントの相談をしてみた。もちろん、僕は彼女の好みを知っているつもりだ。でも、たまには新しい意見を取り入れた方が、プレゼントもマンネリしないだろう。同僚は、薄くて柔らかい、と呪文のように繰り返しながら悩んでいる。彼が彼女のことを真剣に考えてくれていることに、僕は密かに嬉しく思った。今、彼の頭の中は僕の愛しい彼女でいっぱいになっている。彼女の魅力は写真を見せなくても思考の垣根を超えるのだ。僕がくりくりした瞳や、白くて吸い付くような肌を言葉にするだけで、誰でも自ずと彼女の姿が見えてくる。それほど彼女は美しかった。

 

「で、思ったんだけど、ショールとか、スカーフはどうかな」

 

「夏なのに?」

 

「そうか……じゃあ、ネックレスとか、イヤリングにしたらどうだ?」

 

「駄目。そういう装飾品つけないんだよね」

 

「ぬいぐるみは? 女の子ってそういうの好きだろ」

 

「昔あげたよ。気に入ってくれなかったけど」

 

 結局同僚がお手上げになって、その日の会議はお開きになった。彼女には遅くなることは告げてあったが、今日は話し込んでしまったので機嫌が悪くなっているかもしれない。恐る恐る玄関のドアを開けた。

 

「ただいま」

 

小さく言ってからリビングを覗くと、彼女がブランケットにくるまっていた。待ちくたびれて眠ってしまったらしい。僕が彼女の頭をそっと撫でると、寝ぼけ眼で僕の方を見た。

 

「待たせてごめんね。部屋で寝ないと風邪ひくよ」

 

自分がうたた寝をしていたことに気づいたらしく、彼女はリビングを見回すと、眠そうに部屋に入っていった。僕に目も合わせてくれなかったから、きっと怒っているに違いない。明日になったら謝っておこう。

 

 

 

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