枇杷や書館
プレゼント
「あれからどうなった?」
「まだだよ。昨日はちょっと彼女の機嫌損ねちゃったし」
「へえ、喧嘩したんだ」
昼休みになると、同僚がにやにやしながら近づいてきた。僕が彼女のことで悩んでいるのがよっぽど楽しいらしい。彼に誘われて一緒に昼食を食べながら、昨日の続きを話すことにした。
「で、何にするのか俺も考えたんだけどさ」
「うん」
「あんまりこだわる必要はないんじゃないかって思うのよ。その、薄くて柔らかいものに」
「と、言うと?」
「だって、何年も付き合ってる彼女なんだろ? これを機にプロポーズしろよ。お前はもういい歳なんだし……」
プロポーズ、という言葉が発せられた瞬間、僕の顔が曇ったのがわかったのだろう。急に同僚が黙り込んだ。暫く無言で食事を続けた後に、しびれを切らした同僚が口を開く。
「なんかあったのか?」
「前に一回、僕の両親に紹介したことがあるんだ」
「おお、良いじゃん」
「でもね、二人とも彼女のこと、歓迎してくれなかったんだ」
今でも思い出すと辛くなる。僕の話を聞いて、彼女を待ち遠しく思っていたはずなのに、母さんは彼女を気持ち悪いと目の前で言い放った。今まで僕は、両親は僕の幸せに偏見を持たないと思っていたが、その時はっきり違うとわかった。それ以来実家には帰っていない。
「どういう事だよ」
「彼女は、もともと耳が悪くてさ、あんまり聞こえないんだ。目もそんなに良くないし。だから、よく首振ったり睨んじゃったり、傍から見ると気味悪いこともあるから。まあ、親の心配も分からなくはないんだけどね」
「親はお前が苦労するのがわかっちゃうからな……」
「うん。だから、そういうのは僕が親を説得してから」
同僚がこれ以上気を悪くしないうちに、僕は笑って、それとなく会話を打ち切った。僕と彼女が越えなきゃいけない壁は大きいが、いつかきっと認めてくれるはずなのだ。その時は、彼に一番に報告しよう。
「今日はなんか、悪いこと聞いちゃったな。お詫びにアイスおごってやるよ」
「じゃあ、ソーダアイスがいいな」
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