枇杷や書館
社員たちの初詣
「今年は実家に帰れますように」
「結婚できますように」
「平和でありますように」
「えっとねー、いい男と出会えて、楽しいお友達いっぱい増やして、可愛いものいっぱい買えますように!」
四人がそれぞれの願い事をした後、伊織さんがやりたがっていたおみくじを引きに行った。誰よりも先にくじ箱をがさごそやっている伊織さんに、上妻さんが鼻で笑いながら言った。
「あんなに願い事をしておいて、その上幸運までねだると来れば神様も辟易しているだろうな」
「言ってなよ。平和でありますようにーなんて、しみったれた男になんか幸せは来ないんだからねー!」
「おや、じゃあ引き比べしてみるか?」
「あたしが勝つに決まってんじゃん」
伊織さんからくじ箱を受け取った上妻さんは、さほど迷わずに一枚を引いた。やけに余裕そうに口元に笑窪を作っている。その様子に伊織さんは口を尖らせながらも、勢いよくくじを開いた。
「中吉!」
「ふふ、私は大吉だ」
「なんでよ!」
大声をあげて頭を抱える伊織さん。見た目が女性らしいのに大げさに動き回るので全く可愛げが無い。納得がいかないのか、上妻さんのくじを取り上げようと何度も掴みかかるがあっさりとかわされている。
「伊織ちゃんは元気だねぇ。僕たちも引こうか」
「あんまり良いのが出る気がしないんですよね」
「そう悪く言うものじゃないよ。伊織ちゃんくらい自信持たなきゃ……あ、僕末吉だって。待ち人来ず、恋愛は感情を抑えよ、かぁ」
当たりそうで怖いな、と首筋をコリコリと掻いている五月女さん。僕の方はと言うと、結果を少し見て、早々に木の枝に結んだ。すると、伊織さんを退治した上妻さんが様子を見ていたのか話しかけてくる。
「結果、どうだった」
「いいんですよ。なんか、皆さんを見てたらどうでもよくなっちゃって」
「変なことを言うね。何故?」
「どうせ皆さんと一緒なら、普通の出来事なんて起きないでしょうし、どうせなら見ないでおこうかなって」
「賭けるのか。面白い」
「皆さんみたいに、僕もまともじゃなくなったのかも知れませんね」
これからの一年、どんなことが待っていても、不思議と後悔するような気がしなかった。
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