枇杷や書館
社員たちの初詣
会社に就職して一年目の冬。僕は実家に帰らず、年末をアパートで過ごしていた。別に家族と仲が悪いわけではない。仕事である。僕の職場、役員室に休日が無い。単純に仕事量が多いのだ。取り扱っている内容も機密中の機密で、ほとんどがデータにして仕事をすることを禁じられている。年末は特に仕事が多く、終わらせるのに時間がかかってしまった。そして今、やっと僕はテレビを見ながら自宅でのんびりしている。今年も残りわずか、年が明けたら蕎麦でも茹でようかと準備していると、インターホンが鳴った。
「はーい」
「やぁ。私だよ」
ドアを開けると、チェーンの向こうに見慣れた長身の男性が立っていた。隣に住んでいる上司の上妻さんだった。
「こんな夜中にどうしました?」
「どうせ君のことだから、一人寂しく蕎麦でも茹でてるんじゃないかと思ってね。ほら、いろいろ買ってきたんだ」
「ああ、ありがとうございます」
一言余計な気遣いだったが、まさに図星なので上がってもらうことにした。同じ間取りの部屋に住んでいるのに、物珍しそうに部屋の中を眺めている。上妻さんは蕎麦の具になりそうな物いくつかと、お酒を買ってきてくれたみたいだ。僕が買い物袋の中身を漁ってかまぼこと三つ葉とてんぷらを取り出していると、台所に入ってきて勝手にグラスを取り出し、僕の分も日本酒を注いでいた。
「君も飲むだろう」
「はぁ、まぁ」
「日本酒、嫌いじゃないと良いのだが」
「上妻さんに言われると、なんか不思議な感じです」
「私だって日本語は勉強中だよ。日本酒、ニホンシュ」
「全然違和感はないですけどね」
蕎麦も茹で上がり、お酒の準備も整ったところで、二人で炬燵に入る。
「おいしそうにできましたね。頂きます」
「そうだな。海老が旨そうだ」
「買ってきたものじゃないですか……」
「ふふ。そうそう、年が明けたら、初詣に行かないか。隊長と伊織も来るらしい」
「ああ、良いですね。おみくじひいたり甘酒飲んだり。二人は今何してるのかな」
「隊長は社長の家で新年の集まりに参加してる。伊織は知らない」
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