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枇杷や書館
福利厚生のすすめ 2
「お弁当の……醤油?」
中には、大量の魚型の醤油入れが入っていた。でも、全然臭いなんかしないし、これくらい置いても良さそうなのにどうして水上さんは嫌がったんだろう。
「んー?なにそれなにそれ」
伊織さんが興味を持ったらしく容器に顔を近づけてくる。
「水上さんが、お兄ちゃんにこれ返してって渡されたんです」
僕がお兄ちゃんと口にしたその瞬間、声をあげて容器を跳ね飛ばした。小さな魚がばらばらと飛んでいく。
「やだ、汚い! 早く言ってよ!」
「勝手に顔近づけたの伊織さんじゃないですか」
「うるさい! さっさとどっかやってよ!」
「そんな、僕のじゃ無いですし」
「知ってるわよ! それ上妻のゴミじゃない!」
「だからゴミじゃないって何度言えばわかるんだヒス女」
きいきい怒鳴る伊織さんをたしなめるように、上妻さんが大事そうに小魚を拾いながら言った。
「冷蔵庫に入れていたのに、水上に見つかったか。あいつも鼻が利くな」
「一体何なんですか? これ。醤油じゃないんですか?」
終いには泣き出した伊織さんをほっといて、僕も小魚拾いを手伝う。上妻さんはにこにこしながら首を横に振った。いつ見ても笑窪が印象的だ。
「血だよ。女の子の」
「……はあ?」
「おや、誤解しないでくれよ。経血じゃない」
「いや、そこじゃないです。血液を食品と一緒にしておかないでくださいよ! 誰かが間違って使っちゃったらどうするんですか」「ふふ、別に困らないだろう?」
「上妻さんだけでしょう!」
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