枇杷や書館
福利厚生のすすめ 2
この一連のことから既に明白だが、僕の上司や仕事仲間は皆おかしい。血液愛好者にヒス女に頭のネジが外れている、そんな人しかいない。あんまりマトモだとここの仕事ができないからだ。この役員室がやらされている仕事は、他社から技術を盗んだり、都合の悪い人材を消したりする違法なもの。何故か僕はここに配属されてしまい、今に至る。常識はあっても強きには逆らえないという一般人っぷりだけを買われてここに雇われたのだ。そんな選び方をする社長ももちろん普通じゃない。普段、社長は社員なんか眼中にないどころか紙コップとかティッシュくらいの使い捨て道具にしか思っておらず、いつもなぜか遊びに来ている夫人と一緒に過ごしている。そんな動物園みたいな役員室で、僕らと社長の連係役と、仕事のまとめ役をしている人がいた。
「朝から皆、元気だね」
「五月女さん、何とかしてくださいよ」
「はは、今日はちょっと、そんな元気ないかも……」
彼、五月女さんは役員室の中で一番年上の男性社員。年の割にはかなり童顔で、背もそんなに高くない。自分の女っぽい名前が好きではないらしく、上妻さんと伊織さんからはリーダー的存在という理由から隊長と呼ばれている。他の人と比べて大人しくて、とてもいい人だ。いつもにこにこして小動物みたいに愛くるしいのに、今日はなぜか元気がない。フラフラと自分の机までやってきて、いじけた様に突っ伏していた。
「何かあったんですか?」
「え? うん、まあ、あると言えば、あるかな」
なにか言いたくないことがあるらしく、しどろもどろになっている。すると、僕の背後からケラケラ笑いながら伊織さんがやってきた。
「やだー! また駄目だったのお見合い! どうして? ねえ何やったの? 刺しちゃった?」
「もう……僕の傷抉らないでよ……」
「で、本当は何をなさったんです?」
半泣きになっている五月女さんに、ファイルを渡しに来た上妻さんが追い打ちをかける。受け取ったファイルを抱えながら、彼はぽつりと呟いた。
「殴っちゃった……」
「あらら」
僕が彼の肩を叩くのに対して、他の二人はつまらなそうにしている。
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