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枇杷や書館
福利厚生のすすめ 2
「あ、水上さん」
「ひっ」
いきなり現れた僕に驚いたらしく、持っていたティーポットを落としかける。
「え、あ、びっ、吃驚した。なんだ、よ、よし、よしくんかあ」
「よ、よしくん?」
「よしくんも、こう、紅茶、いる? 今ち、今ちょうど愛様に運ぶところ、だ、だったから」
濃いクマが浮かんだ目を泳がせながら、水上さんが言った。彼は今、僕をよしくんと呼んだが、そんな呼び方されたのは初めてだった。
「紅茶、いる?」
「えと、僕と伊織さんに下さい」
「わ、わかった。おねえ、お姉ちゃんのカップって、どれ、だったかな」
「お姉ちゃん……?」
昨日まで伊織って呼び捨ててたのに。
「あの、何でいきなり伊織さんをお姉ちゃんて呼ぶんですか?」
「え、え、僕、前からよん、呼んでたよ?」
「そうですか」
彼は初対面の時からちょっと頭のネジが外れていたが、今日はとことん駄目な日らしい。しかし根は良い人なので悪くは言えない。
「こう、紅茶、どうぞ。あ、あとこれ、おにい、お兄ちゃんに、ここにお、置かないでって、言ってくれる、かな? 臭いが、すご、すごくて」
僕と伊織さんのマグカップが乗ったお盆と手のひら位の大きさで底の深い保存容器を渡される。そのまま給湯室から出てきてしまったが、お兄ちゃんが誰なのかわからない。伊織さんに紅茶を渡してから、自分の席に座って保存容器の蓋を開けてみた。
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