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福利厚生のすすめ 2

 まごつきながらも普通の結婚がしたいと訴え続ける五月女さん。いつになく社長に対して強気だ。しかし、それは逆に社長を苛立たせてしまったらしい。五月女さんの眉間に人差し指を向け黙らせると、静かに話し始めた。

 

「よく自分がどういう人間か考えて喋ったらどうだ。既に自立して、収入もそれなりに私が出してやっている。パートナーなどいらないだろう。一千万の示談金を一括で払えるような貯金を既に持っているじゃないか。生活の保証も既にしている。お前は愛の兄だからな。子供が欲しいなら施設から引き取ればいい。もっとも、かもしれない、かもしれないと愛情の前の暴力から抜け出そうとせず、理想ばかり語っているお前には不可能だろうがな。もし普通の恋愛がしたいだの、幸せな結婚がしたいだの、軽々しく欲望を口にして努力も何もしないようなら、一生望みはかなわないことを自覚しろ。お前の欲望のせいで愛が悲しむなんて、殺してやりたいくらい腹立たしい」

 

 殺してやりたい、の語気の強さもさながら、社長に突き付けられた正論に絶句する。彼の言葉はかなり五月女さんには堪えたらしい。困り眉をさらにハの字にして、五月女さんは俯いた。

 

「すみません、社長。僕が、甘ったれてました」

 

 深く深く社長に向かって頭を下げる。なんだか僕まで五月女さんが可哀想になってきて、側に行こうとしたが上妻さんに止められた。

 

「三回だけ待ってやろう」

 

 社長が静かに言う。

 

「……え?」

 

「あと三回、見合いに失敗したら結婚は諦めろ」

 

「い、いいのですか?」

 

「さっき愛が応援したいと言った。三回もしたら飽きるだろう。それまでだ。礼なら愛にするといい」

 

「あ、あ、ありがとうございます!」

 

「そうだ、上妻。お前、五月女の補助をしてやれ。暇な奴も手伝わせろ」

 

「おやおや。差し出がましいようですが、給料は出るのですか?」

 

「結果次第だ」

 

 そういうと踵を返して夫人の元へ去っていった。 給料が出ると言う事で、通常業務より面白そうな五月女さんの結婚相手探しに僕と伊織さんも首を突っ込むことにした。誰も仕事をしていないわけだが、社長にとっては夫人の心配の方が大事らしい。水上さんも夫人に頼まれたのか、僕たちの席の周囲をきょろきょろ見回しながら爪を噛んでいる。さて、と上妻さんが指揮を執りホワイトボードにペンを走らせた。

 

「まずは、隊長の相手に求める条件を書き出してみようではありませんか。私たちの知り合いに合致すれば紹介もできるし、結婚相談所などにも申し込みやすいですしね」

 

 

 

 

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